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スポーツ医科学(熱中症)

渡辺 郁雄(朝日大内科)
 日ごとに暑くなってきました。多くのスポーツマンにとって夏休みは集中的に練習できるまたとない機会です。しかし、こんな時、気をつけなければならないのが熱中症です。
 わたしたちが運動(筋肉の収縮)を行うと大量の熱を発生し、体温が上昇します。冬でも運動すれば体が暖まるのはそのためです。しかし、人間は恒温動物あるので、体温が上がり過ぎるとさまざまな障害が起こって生命を維持できなくなります。そこで、わたしたちは運動中、特に夏の暑い時には汗をかくことによって体温の上昇を抑えます。つまり、人間にとって特にスポーツマンにとって、汗はそれとともに体の熱を体外に放出し、極端な体温上昇を防ぐ、非常に大切な防御機構であるといえます。
 もし、わたしたちが激しい運動中に十分な水分補給を行わなければ、汗によって体温の上昇を抑えることができません。このような場合、わたしたちはまず脱水を起こし、さらには血液中の電解質異常、中枢神経異常、血液の凝固系異常などを起こし、ついには死に至ることがあります。このような状態を総称して熱中症といいます。
 最も軽い場合は熱疲労といって脱力感、けん怠感、めまい、頭痛などがありますが、この場合は飲水のみで回復します。
 大量に汗をかいた時、長時間水だけを補給していると血液中の塩分濃度が低下します。その結果、足、腕、腹部の筋肉に痛みとけいれんを起こします。これが熱けいれんです。
 さらには体温が上昇し、中枢神経系に異常をきたし、うわごとをいう、呼んでも答えないほどの意識障害をきたす場合を熱射病といって、非常に高率に死に至ります。
熱中症を予防するためには体内に十分な水分を蓄えておく必要があります。軽い場合は飲水だけでよいのですが、大量の発熱では水以外に電解質、鉄分なども大量に失います。水分補給にはこれらが含まれているスポーツドリンクが適当です。重傷の場合は病院へ運ぶことを後回しにしてはいけません。いったん脳障害や腎臓障害を起こすと手当てを開始した時間によって助かるかどうかが決まります。治療開始が遅いと100%死亡します。おかしいと思ったら練習や試合が終了するのを待たずに病院へ連れていってください。結果的に何でもなくてもこれは恥ではありません。