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スポーツ医科学(運動とストレス解消)

岩砂 和雄(岐阜市医師会長)
 すべての動物は身体を動かすことにより生命を維持し、成長し健康を保持することが可能となります。例えば鮫(さめ)の仲間はエラ呼吸をしますが、一般の魚とは異なり、エラを流れる水流を得るために泳ぎ続ける必要があり、眠る時にも止まりません。われわれ人間も身体を動かすことにより心臓から送り出される血液量が増し、血管が膨張し動脈血が隅々まで運ばれます。
 もし、われわれが長い間運動をやめると、末しょう血管は収縮し血流は減少します。やがて血管は退化し、筋肉も組織も萎縮しその回復には長い時間が必要となります。そして血管のない関節腔(こう)においては、関節を動かすことにより関節腔内液が攪拌(かくはん)され、酸素や栄養分が行き渡ります。血液を運ぶ動脈や静脈とは異なり、組織液を運ぶリンパ管は筋肉を使うことにより発生する。加圧と減圧(筋肉ポンプ)によりリンパ流を作り出し、排水作業を行っています。長い時間バスや電車に乗っていると足がむくみ、靴がはきづらくなりますが、歩き始めるとむくみは消えてゆきます。これは下肢の運動により活動する筋肉ポンプの働きによるものです。
 そしてさらに重要なことは、運動はストレスの解消にとっても大変有効な方法です。人間には自律神経(交感神経−闘争、緊張、怒り、恐怖に関係。副交感神経−安心や休息、食欲、性欲に関係)があり、無意識の中でこのシステムは働き続けています。現代社会では多くのストレスが何時もわれわれの大脳を悩ませ続けています。そしてこれらのストレスは交感神経を過度に刺激して神経の緊張を高め、血圧や心拍数を上げ、末しょうの細かい動脈を収縮させて胃潰瘍(いかいよう)、狭心症、心臓神経症、生理不順、不眠などの大きな原因となります。他方ジョギング、体操、ジャズダンス、水泳、ゲーム性のあるスポーツなどあまり過激でない楽しい運動(有酸素運動)は適度に交感神経を刺激し、少なくともその時には大脳を悩ませるストレスは忘れられています。そして、この時、大脳から麻酔効果のあるエンドルフィンが分泌され、われわれのストレスを和らげると言われています。さらに運動後の心地よい疲れはわれわれに食欲と睡眠、すなわち副交感神経の過度な緊張を高め、われわれをストレスから解放してくれるのに役立ちます。
 便利さを追い続けるわれわれ現代人は、運動する事がいかに生命維持や健康保持、そして精神の安定に必要であるかを再認識しなければなりません。