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スポーツ医科学(メンタルトレーニング)

渡植 理保(スポーツ科学トレーニングセンター)
 日本中を感動の渦に巻き込んだ長野オリンピックが終わって2ヵ月がたちました。日本選手は大舞台に弱いと言われていた時代もありましたが、今回は素晴らしい活躍だったと思います。土壇場で実力を発揮するには、心身ともに良好な状態でいることが必要です。けれども、心を鍛えれば勝てるのかといえば、必ずしもそうとは限りません。
 メンタルトレーニングを指導している者として、長野オリンピックで印象的だったのは、スピードスケートの堀井選手の涙でした。堀井選手はこれまで世界の檜舞台で活躍してきましたが、期待されて臨んだ長野で実力を出せずに惨敗。500メートル終了後のインタビューで「悔しいけれど、自分の力は出し切った。体調的には最高だった。足りなかった点?探すのは難しい」と答えていました。
 スポーツで失敗の原因がよくわからないとき、“心”が原因とされることがあります。例えば「集中力が切れた」とか、「緊張してしまった」のように考え、選手自身それで納得してしまうのです、しかし、そのために真の原因を追求するチャンスを逃してしまうこともあります。本当は何がいけなかったのか、あるいは何がよかったのか、心以外の原因はなかったのか、先ず選手自身がきちんと考えてみることが大切なのではないでしょうか。堀井選手は心理面が敗因だったとは言いませんでした。そんな彼は、同じような失敗を繰り返さないための対策をしっかり立てることができるのではないかと思います。
 メンタルトレーニングと一口に言っても、様々なアプローチの仕方があります。岐阜のスポーツ科学トレーニングセンターでは、スポーツをしている時の話を選手からじっくりと聞くことから始めます。それは、病院に行ってまず問診を受けるのと似ているかもしれません。選手自身が自分の心の状態を把握した上で、必要なメンタルトレーニングを選手と担当者とで考えていくのです。また、“身体”と違って実態のつかみにくい“心”の様子に気づくようになるだけでプラスに作用することがあります。まさにこれは心のトレーニングです。必要だと思いながら、なかなかとりかかれないのが心のトレーニングかもしれません。メンタルトレーニングを特別なものとは考えず、まず自分自身を見つめ直すことから始めてみてはどうでしょうか。