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スポーツ医科学(インスリン抵抗性〜相撲選手ら注意が必要〜)

渡辺 郁雄(朝日大学病院)

 糖尿病の主たる原因は、すい臓から分泌されるホルモンであるインスリンの不足であることはよく知られています。近年、血液中の糖だけをみていると正常の人の一部や糖尿病の一部の人の中に血中インスリン量が非常に多い人があることが重要視されてきました。これは多量の血中のインスリンの作用によって、前者ではなんとか血糖を正常値に維持させており、後者では糖尿病をできるだけ軽くしているかのように見えます。
 このような状態をインスリン抵抗性といってインスリンの効きが悪い状態であると考えられています。つまり、上記の人々は普通量のインスリンでは不十分なために、多量のインスリンを分泌して代償したり、あるいはしようとしていることになります。
 インスリン抵抗性となる大きな原因の一つに肥満や運動不足があげられます。肥満や運動不足が糖尿病を発症するひきがねになる理由の一つです。
  このインスリン抵抗性は、糖尿病との関連が深いだけではなく、血圧を上昇させたり、血中脂質の異常と合併すると冠動脈硬化による狭心症や心筋梗塞を高率に引き起こすことが近年明らかにされてきました。
 ところで、体重の大きいことが競技力の大きな要素となる相撲、柔道、レスリングの重量級や重量挙げ選手はこの点はどうなのでしょうか?
 かつて私たちは上記の選手についてこれらの点を詳しく検討しました。上記の選手たちはしばしば普通肥満者と同一視されることがありますが、同じ身長体重を有し、運動習慣のない普通肥満者と較べると、はるかに脂質が少ないことがわかりました。また普通肥満者において高率に見受けられる高血圧、高脂質血症、高血糖(糖尿病)などの発生頻度がはるかに低いことも明らかにされました。しかし、これらの選手においては高頻度にインスリン抵抗性を有することも明らかになりました。つまり、上記選手は普通肥満者と較べればはるかに健康度は高いのですが、よく調べるとインスリン抵抗性があり、必ずしも安心できない場合があることがわかりました。かといって競技に勝つためには体重を落とすわけにもいきません。現在のところ私たちは、選手として現役のうちは定期的検査で追跡し、競技生活を止めたらただちに適正体重へ落とすことを勧めています。スポーツによる内科的障害の一つとして今後、取り扱いを研究しなければなりません。