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スポーツ医科学(運動とフリーラジカル)

牧野 和彦(岐阜医療技術短期大学)

 われわれが生きていくためには、酸素が必要です。この酸素の最大の役割は、生命を維持するためのエネルギー(ATP)を産生することです。そのためには一日500リットル以上の酸素を吸収する必要があります。ブドウ糖を無機的に解糖反応で分解するのと比較して、好気的過程で分解すると、はるかに効率よくATPを産生することができます。
 このような生物にとって絶対不可欠な酸素ですが、その一部はフリーラジカルという細胞毒に変化します。これは細胞が生命活動を営んでいくために生じる"産業廃棄物"のようなもので、それを処理する"毒消し"とでもいうべき抗酸化システムが必要になります。
 人をはじめとする生物は、進化の過程で酸素を利用する能力を獲得してきましたが、それは酸素による障害を防ぐ機能を持った生物のみに可能でした。未熟児に高濃度の酸素を投与した場合、網膜細胞が不可逆的に損傷を受けて失明に至ることが明らかになっています。未熟児網膜症はフリーラジカルの処理能力が十分に発達していない段階で大量の酸素の投与を受けたことにより、酸素毒性が視力を奪ったと考えられます。
 私たちの体には何重にも精巧な抗酸化システムが存在し、フリーラジカルによる毒を防いでいます。代表的な抗酸化酸素としてSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)やGPX(グルタチオンベルオキシターゼ)などがあります。
 運動すると体全体の酸素消費量は、10〜15倍に、活動筋への酸素流入量は約100倍に増大します。そのため、激しい運動によって体内のフリーラジカル発生が増加することが予想されます。実際、われわれの検討でも高いレベルの競技スポーツを行っている選手では明らかにフリーラジカルの産生増加を認めています。
 また、最近高地トレーニングが注目を浴び、日常のトレーニングの一環として取り上げられるようになってきました。しかし、高地トレーニングは低圧低酸素、激しい運動というフリーラジカル発生源の相乗状態で、酸化ストレスに対する予防・対策が重要となってきます。特に肝臓は低圧低酸素負荷がもたらすフリーラジカルの影響を受けやすいといわれており、抗酸化ビタミン(ビタミンE、ビタミンC)の積極的な補給や肝機能のチェックが必要と思われます。