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スポーツ医科学(バイオメカニクス情報

山本 英弘 (朝日大学法学部)

 9月12〜14日にかけて、名古屋で第17回日本バイオメカニクス学会が開催され、興味深い情報がありましたので紹介します。 それは、これまで短距離走の指導において一般的に常識と思われていたことを否定する内容でした。
1.疾走速度を高めるための「もも上げ」指導は必要ない。
 同じ人がジョギング程度の速度から全力疾走までの速度での疾走フォームを分析すると、疾走速度が速くなればなるほど「もも(大腿)」が高く上がる(地面と水平に近づく)という関係が見られます。 すなわち、速く走るためには「もも」を高く上げることが必要であることが分かります。 しかしながら、全力疾走時について世界選手権出場選手からジュニア選手まで分析した結果、どのレベルの選手においても「もも」を高く上げる高さはほぼ同じであったということです。
 驚くことに小中学生ですでにトップアスリートと同じくらい「もも」は上がっていたということです。 このことは、走動作における「もも上げ」動作がこの時期に完成しているということの証かもしれません。 よってすでに完成している技術をあらためて指導する必要はないということです。
2.地面をける際にひざ関節(ひざ)と足関節(足首)をまっすぐに伸ばしきらない。
 一般的には、地面をける最後の局面において推進力を得るためにひざと足首を伸ばすことによって、しっかり地面をける指導がなされているようです。 しかしながら100m走で10秒を切る一流選手の脚を分析すると、それぞれの関節が伸びきる前に"離地"していたとのことです。 また、疾走速度に密接な関係があるのは脚のスウィング速度(脚全体を速く動かす)であるということも分析から明らかになったそうです。 これらのことから、ひざや足首が伸びきる前に"離地"した方が伸ばしきった時より脚を速く動かすことができ、また、このことが脚を伸ばしきって推進力を得ることよりも速度を高めるためには重要であるということです。
 このように多くの指導者は、選手を観察しフォームを撮影して適切な指導をなされていると思います。しかし、経験論だけでなくその裏づけとなるデータを提示しながら指導することにより説得力のある指導ができると思います。 そんな時の技術指導の一助となり得る研究分野がスポーツバイオメカニクスであることを書き添えて紹介を終わります。