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スポーツ医科学(バレーボール 肩の障害

西本 裕 (岐阜大学看護学科)

 バレーボールで最も多い外傷は足関節ねんざですが、腰痛、肩関節痛も競技バレーではしばしばみられる障害です。身長以上の高さのネット越しにボールを打ち合うこの競技では、ジャンプの頂点で頭より高い打点でのボールのヒットが要求されるために腹筋背筋による身体バランス能力が必要になります。
 空中のフォームが悪いと肩への負担が増し、地肩の強い選手の場合は腰に負担が回ります。競技上の必要性から時に「かぶる」アタックを打つことはあるでしょうが、普段正しいフォームを身に付けていかないと早晩、肩か腰に障害をきたしますし、強いアタックになりません。
 痛みの原因を痛む時期と部位からみると、ボールを打つ瞬間の肩前方のゆるみ(亜脱臼)、上方の痛みは上腕二頭筋の腱が関節の中で損傷している場合や腱板(肩関節を含む腱)が肩峰(肩甲骨の一番外上の突起)の下ではさまり込む「インビンジメント」を起こして出ている場合が多いのです。打つ前から肩を挙げる際にも痛む場合には肩峰の下の滑液包が炎症を起こして癒着し、滑りにくくなっていることもあります。
 打った後の痛みは、多くは関節の後方に出て、これは関節包の後方でのゆるみ、炎症が考えられます。ターン打ちのように内側にたたみ込む場合には、肩甲骨が下に引かれるために、肩甲上神経が引っ張られて障害され、肩を挙げていることがつらくなり、ブロックの際に力が入らなくなります。このようびいろいろな障害があり、しかも炎症が周囲組織の硬化をきたすと、肩甲骨の動きが低下してさらに他の障害を併発し、悪循環に陥ります。そのため診断は容易ではありません。
 一般的には不適切な動きでの使いすぎと肩甲骨周囲のかたさが障害のもとですので、十分なウォーミングアップ、ストレッチングにより肩甲骨の動きをスムーズにし、正しいフォームで練習することが大切です。そのためにはジャンプ、空中での姿勢保持が必要で、肩だけでなく下肢、腹筋背筋のバランスのよい筋力増強が不可欠です。
 症状が出た場合には、踏み込みから打ち下ろしまでの流を大事にして全身をボールにぶつける感じでヒットし、ターン打ちなどの無理を避け、ヒットそのものは8割から半分での力で練習してみましょう。もちろん練習後のクールダウンも大切です。これで症状が続く場合は整形外科的チェックが必要です。