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スポーツ医科学(ラグビー選手の心臓形態変化)

加藤 義弘 (岐阜大学)
 習慣的な運動による心臓形態の変化は"スポーツ心臓"として知られています。マラソンのような動的な運動では心臓の容量が大きくなり、重量挙げのような静的な運動では心臓の壁が厚くなるというものです。
 では、動的でも静的でもあるラグビー競技の場合はどのような変化がみられるのでしょうか。過去の大人の一流のラグビー選手でのスポーツ心臓に関する調査報告をみてみると、ラグビー選手の心臓は大きく、そして筋肉は厚くなるような両方の変化がみられたとされています。ただ、それぞれの程度はマラソン選手や重量挙げの選手ほどではなかったとされています。つまり、ある程度心臓は大きくそして厚くなるという結果でした。
 さらに、どのくらいの年齢からスポーツ心臓のような変化がみられるのかという疑問が生じてきます。その疑問を解決するために、岐阜県内のトップレベルのラグビー選手とその指導者の皆さんの協力を得て、心臓超音波検査による心形態の観察を行ってきました。小学校高学年、中学生、高校生までのラグビー選手にお願いして、毎年1回定期的な内科検診として心電図と心臓超音波検査を行ってきました。心臓超音波検査にて、左心室の大きさと筋肉の厚さをはかり、その測定結果と身長や体重から推定した予測値とを比較してみました。その結果、個人差はありますがほとんどの場合、高校生になったころよりスポーツ心臓と考えられるような変化が明らかになってきました。つまり、中学までの選手では、それほどの心形態の変化はみられませんでしたが、高校1年のころから、成長の影響だけでは説明できない程度に心臓の容量が大きくなり、心臓の筋肉は厚くなってきました。
 これらの結果が、本当にラグビーのトレーニングによる結果なのかどうかに関しては不明な点もありますが、現象としてはスキャモンの成長曲線による「心臓の発育は身長や体重と同様に思春期以降に発育のスパートがみられる」とする説明と一致します。また、同時に行った心電図検査でも高校生になると運動選手によくみられる一見異常と間違われやすい心電図所見がみられました。
 成長期の選手を指導する際にはこの事を頭の片隅にでも置いていただければ幸いです。