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スポーツ医科学(糖尿病と付き合う〜血糖値を調節しながら〜

山本 眞由美 (岐阜大学)
 以前、シドニーオリンピック競泳金メダリストのゲーリー・ホールを紹介しました。1型糖尿病を自己管理しながら競技を続けている選手で、アテネでも50m自由形で金メダルを取りました。今回は日本人、セパタクロー選手の田尻謙児さんを紹介します。13年以上にわたって国際大会で日本代表選手として活躍しているベテラン選手です。6年前に1型糖尿病と診断されたそうです。
 血液中の糖分の濃さ(血糖値)は膵臓で作られるインスリンなどの働きで常に一定(70〜140mg/dl)に保たれていますが、インスリンの量が不足したり、効きが悪くなる(抵抗性)と血糖値が高くなって健康障害をもたらします。これが糖尿病です。とくに免疫異常などが原因で突然インスリンが出なくなるタイプを1型といいます。インスリンを適切な時間に適切な量を補うことにより、血糖値は調節できます。したがって、糖尿病でもやりたいスポーツは何でもできるのです。
 田尻さんはホームページで「『こいつ(糖尿病)』とはこの先もずっと仲良くしていかなければならない。自分は病気だということを忘れずに、でも考えすぎずにがんばっていきたい」と書いていらっしゃいます。平成14年のアジア大会でも代表選手として出場し、みごと銅メダルを獲得されました。田尻さんの言葉は、運動をする人すべてに自分の体調を管理することの秘訣を教えてくれています。「体調管理を忘れずに、でも考えすぎずに」。
 さて、「運動選手は自己管理が大事だ」と言われていますが、具体的にはどうしたらいいのでしょうか?要点を5つまとめました。
1.生活のリズムをくずさない
2.自分の理想体重を維持する
3.バランスのよい食事をする(野菜を十分に食べ、油や砂糖を使いすぎない)
4.健康食品などに頼り過ぎない
5.メディカルチェックを定期的に受け、専門医療スタッフにアドバイスを受ける
 ところで、体質や生活習慣の変化が原因で徐々にインスリンの不足や抵抗性が出て起こる糖尿病は2型といいます。他の生活習慣病と同様日本で急増しています。
 生活習慣病の予防や治療のために運動をすることは、とても有効ですが、過信は禁物です。血糖値や血圧、体重などの調節が悪い状態で過度な運動をすると有害です。運動の量や質、栄養の摂り方、病気の薬物治療など、専門の医療スタッフの意見を積極的に取り入れて、自分の体調や目的にあった運動を続けてください。