トップ > 競技スポーツの振興 > スポーツ医科学 > スポーツ心臓

スポーツ医科学(スポーツ心臓)

渡辺 郁雄(朝日大内科)

<スポーツ心臓とは>
長期間にわたって非常に高度なトレーニングを続けてきた運動選手に心臓の軽度の拡大、肥大、徐脈(脈拍数が少ないこと)、種々の不整脈、心電図の異常などが見られることがあります。これらを総称して昔からスポーツ心臓、あるいはアスリートハートと呼んでいます。
一般的には長距離走のように主として持久性トレーニングを行ってきた選手では心臓の拡大が、重量挙げや柔道のように主として筋力トレーニングを行ってきた選手では、心臓筋肉の肥大がおこるとされています。 また、長期間にわたるトレーニングによって自律神経のうち副交感神経が優位になることが知られていますが、このことが徐脈や心電図異常を起こしているものと考えられています。

<スポーツ心臓は病気か?>
スポーツ心臓に見られるこれらの変化は、しばしば心臓のそれも結構、重大な疾患がある場合にみられるものと似ており、心臓の異常を表すものではないかという考えもあります。しかし、現在ではこれらの変化は治療が必要な病的現象ではなく、高度の鍛錬による適応現象であるという考えにほぼ落ち着いています。

<スポーツ心臓の問題点>
以上述べたスポーツ心臓の所見は多くはトレーニング中止後、1〜3年程度で消失しています。この点からみれば、まず心配なものではなさそうです。しかし、スポーツ心臓の筋肉を顕微鏡で観察すると、心筋肥大のほか、細胞の配列の乱れ、変性、繊維化など重篤な心筋症でみられる所見と若干似た点があります。このことから、スポーツ心臓はやはり過度の負荷によってもたらされた病的破たんであるという可能性が残されています。
また、運動習慣がある人に心臓拡大、肥大や心電図異常がある場合、これをスポーツ心臓によるものとされていたのが、実際には心筋症であったために突然死を遂げたという報告があり、両者の鑑別が重要となります。従って、スポーツ歴が短かったり、トレーニングの強度が低かったり、成人になってから運動を始めたような人に心臓拡大、肥大、心電図異常が認められた場合はスポーツ心臓よりも他の心臓疾患を疑って検査をするべきでしょう。ここがスポーツ医学者にとって重要なポイントとなります。