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スポーツ医科学(スポーツとバイオメカニクス)

喜久生 明男(きくいけ整形外科)
 バイオメカニクスという言葉を知っていますか。日本語では生体力学と訳していますが、人の動きを力学的にとらえることです。その方法の一つに動作分析があります。動作を超高速カメラで撮影して750分の1秒の動きを観察したり、三次元動作分析装置を用いると自分の知りたい部位の動きを立体的に再現したり、床圧力計では体の重心移動や足(立っているときは)の前後、左右、上下の3方向の力のかかり方を知ることができます。また、筋電図では筋肉の働きのタイミングの強さを知れます。これらを同期することで同じ瞬間にそれぞれの働き具合をいろいろな面から見る事ができるのです。
 一流選手と初級〜中級の選手の動作はどう違うのか。どこに差があるのか。どうすればいい動きができるのか。こんな質問に答えを出せるかもしれません。今までは経験者の経験的な判断で指導を行っていました。もちろん、経験者の指導は間違いではありませんが、なぜ、どうしてについてははっきりとしない事が多いと思います。しかし、動作分析ではこのはっきりしない部分を明らかに出せるかも知れないのです。
 スポーツ科学トレーニングセンターではスポーツ選手の体力を測定するだけではなく、全国に先駆けた測定機器をそろえて、このような動作分析も行っています。先日の第20回岐阜スポーツ医学研究会では著者やスポーツ科学トレーニングセンターの濱茂樹氏らの女子ホッケー選手のヒット動作の結果が報告されましたが、スイング速度とボール速度、体幹と手足の筋力との関係を調べたところ、スイング速度とボール速度とは関連があり、スイング速度と体幹屈曲筋力との関連がありましたが、ボール速度はいずれの筋力とも関連が認められませんでした。すなわち、スイングが速ければボールも速く、スイングを速めるために体幹の屈曲筋力を鍛える必要があることが分かったわけです。また、筋力がつけばスイング速度が上がるものの筋力がつけば、すぐさまボール速度が上がるとは行かないようでした。そこには芯に当てるとか、当てるタイミングとかの技術的な要素がからんでいるようです。
 動作分析をすればすべてが解決するわけではありません。何を知りたいか、どこが問題点なのかという動作分析の目標が明らかであれば、強い味方にできるのです。よい指導者は選手のちょっとした動きで選手の能力を見抜いてしまいます。そんなよい指導者の卓越した目と科学の目とがドッキングできれば選手の能力開発に役立つと考えられます。指導者に「なぜ」、「どうして」という疑問があれば、ぜひ、スポーツ科学トレーニングセンターのバイオメカニクス部門で相談して下さい。科学の目を利用して少しづつ競技力向上に役立てない手はありません。