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スポーツ医科学(競技力向上のための道具)

松岡 敏男(岐阜大学)
<用具の使用>
 競技力の向上は身体的資質を高めたり、スキルや戦術の能力を向上させることで得られます。また、競技に用いる用具の活用でも記録や成果を高めることができます。用具には競技の一部として使用するものと、そうでないものがあります。スラップスケートや陸上競技のスパイク、水着のような記録に影響を及ぼす用具、カービングスキー、テニスラケットのような技術習得が容易なものや性能が高められた用具、ユニホーム、スパイクのような快適性や吸水系・吸湿性を求めた用具、マウスピース、サポーターのようなけがや事故防止を目的とする用具等があります。用具以外にも施設の改良が影響します。国立競技場のトラックの改修が有名で、世界陸上選手権では好記録が生まれました。スケートリンクやプールも同様です。
<競技力向上と用具の開発>
 用具で今、話題なのがスピードスケートのスラップです。陸上競技の百メートルは80年間に0.7秒程度の短縮ですが、スピードスケートの500メートルはスラップを使用してから記録は大幅に短縮されました。陸上競技の短縮はわずかな更新ですが、このためトップランナーたちのスパイク開発が盛んです。カール・ルイスは0.1秒の短縮目標を半分は自分の力で半分はスパイクの力で達成できると言ったそうです。実際のスパイクの貢献率は0.03秒程度であったとの報告があります。また、ランニングシューズの衝撃吸収材や反発弾性素材、水泳の新しい素材の水着、軽量で弾性のあるラケット、ボールがよく飛ぶゴルフクラブや野球のバットなど枚挙にいとまがありません。
<危険な落とし穴>
 用具の開発は競技者に合わせたものや高性能なものへと改良を進めます。しかし、開発した技術者は、最高レベルにある競技者には用具が記録にどれだけ貢献できたか明確でないと述べています。問題は改良された用具の特性を知り、性能にあった技術を持ちあわせていれば競技力の向上に貢献できますが、それがなければ宝の持ち腐れになります。そればかりか技術レベルの低下やケガや障害を引き起こす可能性が強くなることを示唆している点に注意を払わなければならないでしょう。