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スポーツ医科学(血中乳酸値とスポーツ)

宮本 洋通(朝日大)
 運動は筋肉の収縮によって行われます。そのために必要なエネルギー源であるATPを産出する経路にはATP−CP系、乳酸系、酸化系の3つがあります。
 ATP−CP系はエネルギーの発生の持続時間は短いものの高度のエネルギーを発生することができます。砲丸投げ、100メートルダッシュなど30秒以内に最大パワーを発揮する運動でみられます。乳酸菌はグルコースが代謝されて乳酸に至る経路で200〜400メートル走など30〜90秒程度の間に最大パワーを発揮する運動で起こります。この経路は乳酸が蓄積して、ついには運動遂行不能となります。酸化系はジョギング、サッカーなど酸素供給が消費に対して十分である運動のエネルギー供給形態です。
 酸素の供給が十分足りている軽く長時間の運動(有酸素運動)では酸化系が働き、乳酸は蓄積せず、ある強度以上の運動になると乳酸系が働き乳酸がたまってきます。
 運動強度を次第に上げていくと、ある強度を境に血中乳酸の濃度が急激に増加する現象が見られます。大体この強度までは酸化系が働いて運動を続けることができますが、これ以上の強度では乳酸が蓄積し、やがて運動を続けることができなくなります。
 このような乳酸は疲労と持久力に関係する一方、運動の力の指標としたり、運動強度を示すことが出来る物質ともいえます。
 運動強度を次第に上げていく時、乳酸の蓄積の始まるところが非鍛練者と長距離走者とでは違います。前者ではその人の最大運動能力の65%前後のところであるのに、後者では80%前後なのです。これはトレーニングによる効果と考えられます。このあたりにはまだ議論が多いのですが、トレーニングを行うことにより筋に発生した乳酸を早く処理する能力が増大し、乳酸に対する抵抗力が増大し、トレーニングしていない人より多量の乳酸が発生しても運動を続けることができるようになるものとおよそ考えられています。
 また、運動終了後、クーリング・ダウンのための軽い運動を行うことによって蓄積された乳酸を早く分解することができます。
 近年、血液中の乳酸濃度を迅速に測定できる機器が発売され、これを競技力向上に生かすいろいろな試みが行われていますが、まだ難しい問題が多く残っています。