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スポーツ医科学(スポーツによる歯やあごの外傷)

山内 六男(朝日大学歯学部)
 

 最近では、年齢を問わず健康増進のためにジョギングやテニスなどのスポーツが行われています。しかし、比較的安全と思われているようなスポーツにおいても、転倒や他人との接触、あるいはラケットが顔面にぶつかったりすることにより、口腔(こうくう)内粘膜の裂傷、歯の破折や脱きゅう、顎(あご)骨骨折を生じることがあります。特にラグビーや空手などの攻撃的なスポーツでは外傷の頻度も高くなります。顎顔面部の外傷の約10%はスポーツが原因しているといわれており、特に頻度の高い外傷です。
 歯の先が折れた程度であれば、レジン(歯科容プラスチック)による修復処理ですみますが、歯冠のほとんどが破折すると神経をとる必要がでてきます。ただし、年齢が若い場合には神経をとらずに折れた歯冠部分を接着剤でくっつけることも可能です。また、歯が抜けた場合には泥や砂などを洗い流した後、牛乳に漬けて早めに歯科医院を受診していただければ、抜けた穴に戻すことも可能です。
 一方、顎骨骨折や顎関節骨折では、痛みはもちろんですが、上下の歯がかみ合わない、ものがかめないなどの症状が出ます。そのため入院による骨折処置とその後のかみ合わせの処置が必要ですので、かなり長期間の通院を要することが多くあります。

  このように、スポーツ時に歯または顔面に外傷を受けることがあるため、最近ではマウスガードといわれるものを装着することが推奨されています。マウスガードとはシリコンなどの軟らかい材料で歯や歯茎の部分を覆うように作ったもので、よくボクシング選手が試合中にはめるマウスピースとほぼ同じ形をしています。もしも顔面部に強い衝撃を受けても歯の破折や口腔粘膜の裂傷を防止することができます。現在、日本ではボクシングとアメリカンフットボールのみ装着することが義務づけられていますが、ラグビーやアイスホッケーなどの試合中に相手選手と接触の多い種目においても装着することが推奨されています。特に、小学生がラグビーなどを行う場合にはぜひ、装着してほしいものです。マウスガードはスポーツ用品店でも既製品が売られていますが、口に合いにくいため、スポーツ外傷の予防効果が少なく、あまりすすめられません。歯型をとってそれに合わせて作ったマウスガードの方がスポーツ外傷の予防には効果的ですので、歯科医院にご相談下さい。