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スポーツ医科学(スノーボードと肩の脱きゅう)

野口 耕司(岐阜市民病院)
 雪の季節になり、スノーボードが若者達の人気を独占しています。それに伴いボードによる上肢の外傷が急激に増加しています。その内容は上腕骨や鎖骨骨折のほか、肩関節の外傷、特に肩関節や肩鎖関節の脱きゅうが増えています。不安定な板の上でバランスを取って滑走するスポーツの宿命で、転倒は避けられません。スノーボードは両足をボードに固定されているので転倒の衝撃は主として上肢で受け止めることになります。転倒の際、顔面をかばうために本能的に手をつきますが、その衝撃により上腕骨を突き上げ、その肢位によっては上腕骨や鎖骨を骨折したり、肩関節や肩鎖関節を脱きゅうしたりします。
 肩関節は肩甲骨と上腕骨を結ぶ関節のことで、肩鎖関節とは肩甲骨と鎖骨を結ぶ関節をさします。肩関節脱きゅうとは、上腕骨と肩甲骨との関節の脱きゅうをいいます。上腕骨骨頭が前方に脱きゅうすると肩関節の前方を支える関節方やじん帯が断裂し、関節唇と呼ばれる軟骨が骨から剥離します。脱きゅうの整復はそれほど難しくありませんが損傷したじん帯や関節唇は腕を固定するだけでは 治りません。関節包やじん帯が緩んだ状態のままとなります。そのため物を投げるような格好をすると脱きゅう感がし、さらにその運動を続けると再脱きゅうを起こします。これを何回か繰り返すと、投球動作を伴うスポーツは脱きゅうの不安感のためできなくなってしまいます。進行すれば日常生活でも脱きゅうするようになり、手術が必要です。
 初めての脱きゅうでは救急処置で整復を受けた後に専門医による診察と関節造影CT検査で関節前方のじん帯や軟骨の損傷状態を検査する必要があります。損傷の程度が重度であれば一時的にじん帯の修復を行うことも考慮されます。肩鎖関節脱きゅうでは上肢が肩に向かって突き上げられるような衝撃を受けると、鎖骨と肩甲骨をつなぐじん帯が完全に切れていると整復位を保つことは困難で 手術によってじん帯をつないだり他のじん帯を移植することが必要となります。いずれにしても簡単には治療できません。
 スノーボード外傷はスキー外傷の10倍もあります。ボードの楽しみを奪うことはできませんが、ケガをしない転倒法の訓練を練習に取り入れるなどケガに対する予防法を充分、身に付けてからゲレンデで滑走すべきだと思います。