競技スポーツの振興
スポーツ医科学(高所トレーニングの効果と方法)
古田 善伯(岐阜大学教育学部) |
日本を代表するマラソン・ランナー有森裕子選手らが、アメリカのデンバー市郊外のボルダー(標高2300メートル)やネダーランド(同2600メートル)に滞在して高所トレーニングを行ったり、またケニアなど高地に居住している選手が中長距離種目で好成績を収めていることはよく知られている事実です。 今日では世界中で高所トレーニングの有効性が確認され、高所トレーニングの実践と研究が行われています。そこで、今回は高所トレーニングの効果と最近の高所トレーニングの考え方についてまとめてみることにします。 高所トレーニングの効果としては、次のような効果が明らかにされています。 @赤血球やヘモグロビンが増加する・・血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンは酸素を筋肉へ運搬する役割を担っていますが、高所に滞在していると、赤血球とヘモグロビンが増加して、筋肉へより多くの酸素を運搬できるようになります。 A血液量が増加する・・血液量が増加すると、酸素を運搬するヘモグロビンも増加することになります。 B筋の酸化能力が向上する・・筋まで運搬されてきた酸素を筋の中へ取り入れて運動に必要なエネルギーを生成しやすくなります。 C最大酸素摂取量が増加する・・@〜Bなどの効果が総合されて、体内に多くの酸素を摂取できるようになります。1分間に体内に摂取できる最高の酸素量を最大酸素摂取量といいます。この値が大きいほどマラソンなどに必要な持久力に優れていることになります。 D乳酸が生成されにくくなる・・乳酸が生成されると、筋肉の収縮力が低下してパフォーマンスが低下してきます。そこで、運動中にできるだけ乳酸が生成されない方がマラソンなどの競技では有利になります。高所トレーニングによって、例えば同じスピードで走っても乳酸が出にくくなってきます。 以上の効果は、高所トレーニングを適正に行うことによって得ることができます。従来は高所に滞在し高所でトレーニングをする方法が主に行われていましたが、最近では”高所に滞在し平地でトレーニングする方法”がより効果的だと考えられています。日本陸上連盟の科学委員会では陸上競技選手のために高所トレーニングのガイドラインを作成していますので参考にしてみて下さい。 |