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スポーツ医科学(スポーツ傷害の予防策)

喜久生 明男(きくいけ整形外科)

 スポーツ傷害とは外傷(けが)と障害(故障)を含めた言葉です。スポーツ傷害の予防策について、最新のスポーツ医学論文から報告します。
 スポーツ傷害はいろんな危険因子が同時に関与することによって生じますが、その原因を分けますと、外敵危険因子(競技レベル、練習時間、強度、ポジション、競技会場、天候、用具、競技相手、審判、監督、観客等)と内的危険因子(身体的特徴・・年齢、性、体型、体力、関節可動性、筋力、じん帯不安定性、解剖学的異常、運動能力や心理的問題等)があります。
 サッカーでは傷害を想定した多要因予防プログラムを行うことで傷害の発生率が75%低下したのですが、その中の何が有効であったかは不明です。
 ハンドボールでは、試合前のウオーミングアップとともに10分くらいの足関節用円盤トレーニング(バランスボード)を行い、新たな傷害のリスクが76%低下しています。この効果の一部には傷害認識の向上も考えられます。
 バランスボードのトレーニングはバスケットボールでも足関節のねんざ発生が減少しており、サッカーでは足関節固有受容器のトレーニングによりひざの前十字じん帯の傷害リスクが87%低下していました。足関節の予防的ひざ装具はアメリカンフットボールのディフェンスプレーヤーの内側側副じん帯の傷害リスクを減少させていましたが、傷害の程度は軽減していません。
 スポーツ前後のストレッチは直後の傷害リスク抑制効果を証明できなかったようですが、私の経験(中学〜高校レベル)ではスポーツ傷害の一番の原因と考えています。
 衝撃吸収インサートは、疲労骨折リスクを53%低下させ、スキー滑降では改良ビンディングが下肢傷害リスクを減少させ、インラインスケートでは手関節ガードやひじパットが上肢傷害リスクを減少させています。
 ヘルメットやマウスガードなどは自転車、アイスホッケー、一部の空手などで重症な傷害の予防に役立っていますが、一方では軽症の傷害リスクの上昇も示唆されています。
 これは足関節やひざ関節の装具でも同じで、ねんざ予防には効果的ですが、費用がかさむことや足の位置感覚認識低下による運動能力低下等の問題を含んでいます。足の触覚や位置感覚を維持できるような靴の使用やバランスボードなどによる定期的なトレーニングが下肢の傷害予防には有用だと考えられています。
 今後は、一般スポーツ愛好家や子供を対象にしたいろんな予防策の有効性の検討が課題となりますが、少なくとも、このレベルでは効果のあるストレッチをしっかり行うこと、急激な運動量の増加を防ぐこと、疲労を残さないこと、解剖学的異常(扁平足やO脚など)を整形外科専門医で治療すること等が大切な傷害予防であると思われます。