競技スポーツの振興
スポーツ医科学(これからのメディカルチェックA)
渡辺 郁雄(朝日大学内科) |
競技によって身体に加わる負荷はその量も質も異なるのでメディカルチェック(MC-競技選手の健康診断)も競技特性を考慮してその内容を決めることが必要です。今回はそのうち内科的問題として、近年特に重要視されてきた相撲、柔道重量級選手の糖、脂質代謝障害とインスリン抵抗性について述べましょう・ これらの選手では体脂肪量も多いのですが、筋肉量も多いため通常の肥満者と比べると体脂肪率は意外に低く、過剰の脂肪によって引き起こされる糖尿病、高脂血症、脂肪肝などは案外少ないものです。しかしよく調べると血中のインスリン量が非常に多い場合が少なくありません。数年間の私たちの調査では、上記選手のうち60-70%で血中インスリン値の異常な高値が認められました。一般的にはインスリンが欠乏すると糖尿病になるわけですから、糖尿病とは逆のことが起こっているのです。 この事実が意味するところは、上記の選手ではインスリンの効きが悪いために体内から異常に多量に分泌し、高いインスリン値によって糖尿病を押さえ込んで一見さほど大きな異常がないように見受けられるということになります。この状態をインスリン抵抗性といいます。 ところが近年、この高インスリン血症が将来は糖尿病だけではなく脂質代謝異常、高血圧、虚血性心疾患など動脈硬化性疾患の進展に重要な役割を果たしていることが明らかにされてきました。したがって、上記選手は通常のメディカルチェックで異常がなくても、将来の人生を考えれば必ずしも安心はできないということになります。 私たちはこれらの選手には引退後は、速やかに体重をコントロールするように勧めています。大部分の選手は30歳前後までには競技をやめると思いますが、このころにしっかり体重をコントロールすればまずは問題はないものと考えられます。 このようにスポーツマンの身体には、現時点では競技力にとってマイナス要素ではなくても、選手個人の人生全体からみれば問題となる重要な変化が起こっていることもあります。これからのMCは単に目先の障害だけではなく、選手を一個人としてその生涯を通じた健康を考慮して行う必要があるものと考えられます。 |