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スポーツ医科学(スポーツ選手と喘息〜日常コントロールを〜)

渡辺 郁雄(朝日大学内科)

 わが国におけるアレルギー疾患の有病率は近年増加傾向にあり、気管支喘息(ぜんそく)=以下喘息と略す=においてもその有病率は成人で約3〜4%という報告がなされています。このような状況下では喘息を持つスポーツ選手の存在がクローズアップされ、その中でも運動誘発性喘息と呼ばれる運動後5〜10分での発作が、日ごろの競技やトレーニング、さらには日常生活にまで、影響する場合あり、問題になっています。
 さてこの運動誘発性喘息ですが、、その発症には運動の種類や強度、運動時間や患者さん(選手)の重症度などが関係し、これらの事を理解した上でトレーニング方法を工夫すれば予防することも可能となります。
 まず運動の種類についてですが、運動誘発性喘息の原因と考えられている気道の冷却や水分の喪失を起こしやすい冬季のランニングは、同じ強度の水泳と比較すると特に発作を誘発しやすく、その場合マスクの着用や鼻呼吸が勧められます。運動強度と時間については強度が増すほど、また一定の速度でのランニングでは6〜8分で発作を誘発しやすく、一方軽い運動から徐々に強度を増していったり、10分以上の軽い運動では運動誘発性喘息を起こし難い事が知られています。また運動強度が強くても2分程の運動であったり、同じ程度の運動を繰り返し行うと二度目以降発作を起こし難い事も知られております。以上の事からウォーミングアップやインターバルを取り入れたトレーニング、運動強度を段階的に上げていく運動が発作予防に有効であることが分かって頂けると思います。
 次に重症度と運動誘発性喘息との関係ですが、重症ほど運動誘発性喘息を起こす割合が高く、呼吸機能上の低下を認めるという報告が多く、日常の喘息のコントロールの重要性を示唆しています。喘息では自覚症状と重症度とは必ずしも一致しない場合も多く、ピークフローメーターといって気道狭窄の程度を客観的に数値化する機器を活用した自己管理が、特にスポーツ選手のような目的意識の明確な方々には勧められます。たとえばピークフローメーターでの値が、ある選手の最大値の60%以下の場合は、運動誘発性喘息発症の可能性が高いため運動自体を回避するか、気管支拡張薬の吸入を行ってから運動するといった具合にです。
 なお、オリンピックでは、運動誘発性喘息予防のために、本来ならドーピング違反になる薬剤の使用が認められています。