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スポーツ医科学(選手の個性を伸ばす)

黒川 淳一 (岐阜大学)
 先日、某ニュース番組でオリンピック金メダリスト高橋尚子選手のインタビューが放送されていました。インタビュアーが彼女に質問したことは「お好きな食べ物は何ですか」でした。おそらく年頃の女性の事ですから「好きな食べ物は」と聞かれたら「ケーキ」とでも答えることは普通なのではないのでしょうか?しかし、この「普通」というのが今回のテーマです。
 もし、仮に他の食べ物が好きであったとしても、話の流を汲んで会話を丸く納めようと考えたり、よけいな勘ぐりを入れられないようにするために「当たり障りのない」回答を選択することは「普通」の普通たる所以ではないでしょうか。きっと「ケーキ」と答えたならば、インタビュアーでその話題はそこで終わってしまうでしょう。
 しかし、「ケーキ」と答えたとしても、その次に「でも、身体管理のことがあるから最近は食べていないのです」といったような、好きなものをあえて我慢する姿を、マスコミを通じて世間にアピールしようと考えるようなタイプの方もきっとおられるでしょう。こういった点まで考えて言葉を選ぶようなタイプの人はアピールが上手な分、世間的に華やかな職業(政治家や芸能人、もちろんスポーツも)で成功することは多いと考えられます。その一方で、精神的に追い詰められたりするとアピールが先走って実が伴わないこともしばしばで、「誠実」に努力するといった面が乏しくなることがあるのではないでしょうか。スポーツの世界でドーピングが厳しく非難されるのは、何よりもこの点でしょう。
 では高橋選手はどう答えたでしょうか?彼女は屈託ない笑顔で答えました。「骨なんです」。インタビュアーは予想していなかった様子であわててこう聞き返しました。「では、骨とケーキならどちらがお好きですか」。彼女は少し恥らいながらもうれしそうに言いました。「いや、それはもう断然、骨です。骨髄がおいしいのですよ」。「普通」の人の代表であるインタビュアーは、このような思いもよらないような回答が正直な答えとして出せる彼女を「天才」と評することでしょう。
 いま、スポーツの世界ではこういった個性に伴う長所や短所を心理学的スキルによって把握し、理解した上で長所を伸ばす指導や短所を補う助言といった形で活用する試みがなされています。