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スポーツ医科学(呼吸のリハビリ・COPDの運動療法)

各務 正之(朝日大学内科)

 運動能力を規定する因子としては主たる運動筋である下肢筋力、酸素を血液内に取り込むための呼吸機能、筋肉に酸素や栄養素を送り込む心血管機能およびそれら三者の協調性が挙げられますが、例えば呼吸器疾患を持つ人では呼吸機能に障害があるため、運動時に筋肉や心臓に余裕があっても運動が制限される事が認められます。今回は呼吸器疾患の内、世界的な増加を認める慢性閉塞性疾患(COPD:chtonic obstructive pulmonary disease)の運動療法に触れてみます。

 COPDは喫煙を主たる原因とする不可逆的な気流制限(主に呼吸時)を特徴とする疾患で、以前は肺気腫や慢性気管支炎といった疾患名で呼ばれる事が多く、労作時の呼吸困難を主症状とし、高齢化を背景に世界的に罹患率・死亡率とも増加している事で注目されています(2020年には世界の死因の第三位になると予測されています)。
 ところでCOPDは長年にわたる呼吸障害から主たる呼吸筋である横隔膜や外肋間筋あるいは内肋間筋といった筋肉が疲労し筋力低下を起こし、そのため呼吸補助筋と呼ばれる通常の安静呼吸では活動しない胸鎖乳突筋(頚の筋肉)などの緊張が認められる事がありますが、この呼吸筋力低下に伴う呼吸困難や運動耐容能を改善するため、腹部に重りを載せてそれを持ち上げるように呼吸する腹部重錘負荷法や息を吸う時に抵抗がかかる器具を使用し、それに抗して息を吸う事で呼吸筋を強化する呼気相抵抗呼吸トレーニングといった呼吸筋トレーニングが試みられています。
 一方、COPDでは骨格筋、それも大腿四頭筋などの下肢筋の筋力低下も著しい事が知られており、その原因として呼吸困難のためほとんど動かない事による筋肉のいわゆる廃用(ディコンディショニング)や、換気障害による低酸素血症・高炭酸ガス血症、栄養不良(食事をする事も労作である)などが挙げられます。そして大腿四頭筋筋力と運動耐用能や日常活動作と密接な関連性が多く報告されている事から、COPDにおける下肢を中心とした運動療法(自転車エルゴメーターやトレッドミル、平地歩行など)は、呼吸リハビリテーションの中で唯一、十分な科学的な根拠のある有効な治療法であるといわれています。