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スポーツ医科学(高地トレーニング〜適応能力に個人差〜

牧野 和彦 (岐阜医療技術短期大学)
 一流のマラソン選手や水泳選手は高地トレーニングをうまく取り入れて成果を挙げています。この高地トレーニングが注目されるようになったのは男子マラソンのアベベ選手がローマ五輪と東京五輪の2大会続けて優勝したのがきっかけでした。1968年のメキシコ五輪では高地練習をこなした日本の君原健二選手が男子マラソンで銀メダルを獲得し、高地トレーニングの有効性を40年も前に実証しています。
 現在では、トレーニングに適した標高および期間は、1800〜2000m付近で3〜6週間といわれており、米国コロラド州ボルダ-(標高1650m)や中国の昆明(標高1880m)が有名です。また、シドニー五輪前の高橋尚子選手は3500m付近で練習し、話題になりました。
 それでは高地トレーニングはなぜ有効なのでしょうか。それには環境と選手の適応力の二つが関わってきます。低酸素環境では、筋肉への酸素の供給が制限を受けるため、平地にくらべて相対的に運動強度が高くなります。そのため、平地と同じトレーニングを行っても、平地より筋肉への酸素運搬能力や、有酸素性エネルギーの産生能力が高まっていきます。また、乳酸系の代謝が抑制されるため、一定速度のランニング中の血中乳酸濃度を低く保つ能力が、より一層向上することもわかってきました。
 しかし、この高地トレーニングも必ずしも万能なトレーニング方法とはいえません。高地への適応能力には予想以上に個人差が大きく、選手個々に適したトレーニング内容や強度を設定しなければならず、コーチ・選手ともに経験が必要と言われています。また、血液検査などによって体調を管理することが重要です。海外で高地トレーニングを行う場合は、日本と外国との環境の違いからくるストレスにも注意が必要です。
 われわれの検討では、これまでより低い標高(1000〜1500m)でのトレーニングや、3〜4日の短期間のトレーニングでも繰り返し実施することにより同じような効果を得られることが明らかになってきました。さらに日本国内には飛騨御嶽高原高地トレーニングエリアのように適した環境が整備されてきており、高地トレーニングが一部のエリート選手だけではなく、多くの選手にとって経済的にも、手軽に導入できるようになってきました。