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スポーツ医科学(こころのトレーニング)

鈴木 壮(岐阜大学教育学部)
 最近のスポーツのトレーニングでは身体面や技術面ばかりでなく、心理面のトレーニング(メンタルトレーニング)もトレーニングプログラムの中に組み入れ実力発揮、競技力向上、技術習得の効率の向上を目指すようになっています。
 このメンタルトレーニングは目標設定、リラクセーション、イメージ、暗示などさまざまな心理技法があります。どんな技法を用いるにしても、そもそも「こころ」というものが厄介なものなので、そのトレーニングにはちょっとした難しさがつきまといます。というのは「こころ」は実体があるわけではないために、トレーニングの成果が実感しにくいからです。
 「こころ」のトレーニングの難しさは「こころ」が重要視されているように見えて、実は簡単に扱われがちである、というところにも表されています。たとえば、「やる気がない」「あがる」などのような時に「気持ちを引き締めろ」「もっとしっかりしろ」と言うだけですまされてしまうことがあります。どうしたら気持ちが引き締められるのか、どのようにしてしっかりできるのか、については示されていないのです。また、負けた原因を「心理的に弱い」といった理由だけで片づけてしまうことも見受けられます。ここでも、心理的に強くなるにはどうしたらいいのか、については示されていません。さらに試合や練習の結果がよくないときにその原因が実際は「技量不足」や「選手とコーチの人間関係のまずさ」であるときに、それが「こころ」に原因があるかのように「あそこで弱気にならなかったら・・・」「気合いが入っていないからだ」のように言われることもあるようです。
 以上のような状況が見られることはそれほど多くはないかもしれません。現代の競技スポーツでは、実力発揮や競技力向上ができない原因を十分に理解した上で、それに基づいてどのようにして心理的に強化していけばいいかについて考え、メンタルトレーニングを、他のトレーニングと同様に日常練習の中に導入することが望まれます。
 ただ、「こころ」のトレーニングのちょっとした難しさから、その成果を実感しにくいため、それなりの時間とエネルギーをかけて本当に地道に取り組んでいくことが必要です。そうやっていくと、徐々にその成果が感じられるようになります。やはり、「わずかの投資で奇跡を期待する」ことはできないのです。