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スポーツ医科学(スポーツと脂肪〜大きなエネルギー源〜)

牧野 和彦(岐阜医療技術短期大学)

 スポーツ選手の体脂肪率は男性5〜15%、女性10〜25%であり、運動をしていない男性の体脂肪率10〜20%、女性20〜25%と比較して明らかに低い値を示します。しかし、この脂肪量は非常に大きなエネルギーポテンシャルを持っています。
 脂肪酸の酸化高進を引き起こすステップは複雑で、定常状態の適応に達するまでに約20分かかります。従って初期のエネルギー不足を糖質の利用で補わなければなりません。いったん脂肪を動員するための輸送や取り込みが高進され、その状態で代謝が定常状態になってしまうと、脂肪組織からの遊離脂肪酸は、非常に長い期間有効となります。
 仮に脂肪が唯一のエネルギー源であるとすると、理論的には、1人の人間がマラソンのスピードで約70時間以上走り続けることができ、そのエネルギー消費量は70万キロカロリー以上に相当すると言われています。
 スピードを競う場合、脂肪だけでは激しく運動をしている時のエネルギーを十分に供給できませんので、糖質の利用能力が運動時間を決定する重要な要因の一つとなります。しかし、グリコーゲンとして肝臓や筋肉に貯蔵できる量には限りがあります。たとえば30キロ以上走る長時間の競技では枯渇してしまいます。従って、脂肪の利用を最適化し、競技後半のために肝臓と筋肉のグリコーゲンを節約することが重要になります。持久性トレーニング時、すなわち運動強度を一定にしたトレーニングを持続することにより、エネルギー源としての脂肪の利用率が向上し、疲労を遅らせることができるようになります。
 脂肪は、肉やミルクなどの動物性食品に多く含まれています。果物や野菜などの植物性食品にはあまり含まれていませんが、ナッツや種実類には多く含まれています。
われわれが食べる脂肪はトリグリセリドとして知られており、遊離脂肪酸とグリセロールが結合したものです。脂肪から必須脂肪酸や脂溶性ビタミンが供給されています。
 中鎖脂肪酸からなるトリグリセリド(MCT)は糖質のように小腸からすばやく吸収され、ミトコンドリアへ容易に運ばれます。経口摂取されたMCTは、運動中に速やかに酸化されることがしられており、持久性の選手の競技用食として興味深いものですが、評価はまだ確立されていません。